Ecosystem of Tajikistan (タジキスタンの生態)

上の図は Tajikistanのおもな生態系について、標高、降水量、水条件(河川からの近さ、水色)等で表現したものである。
 標高(図ー右側に軸)は400mから3500m、降水量(雲形の曲線)は200mmから1600mmの範囲を示す。クリモグラフ(気温と降水量の年変化)は”気温”の紹介を参照ください。おもな生態系は(A):Hiland Ecosystem(おもにパミール),(B): Juniper Forest (ビャクシン林),(C):Poplar Forest (ポプラ林), (D): Fruits Tree Ecosystem (果樹園), (E): Desert Ecosystem 沙漠生態系である。以下に5つの生態系について概説する。
 


High Land Ecosystems (A)  パミールの生態

 

パミール(海抜4000m)に おける高層湿原

旧ソビエト連邦は建国まもなくの5カ年計画で「パミール公道」をキルギスのオシュからタジキスタンのホログまで890km建設した。住人の多くはキルギス人で、ヤクの放牧で暮らしを立てている。写真中央の小川は塩濃度が高く、アカザ類が生育している。遠くの雪山は5000mを超える高山である。
 パミールは中国新疆ウイグル自治区と接し、東部の Kulma峠(4363m)を中国の大型コンボイが隊列を組んで行き来する。まさに「一帯一路」である。南は18世紀イギリスとロシアの干渉帯として「ワハン回廊」が設けられた。古くからシルクロードとして、文化、宗教、物資の交流が盛んであった。
 

パミールの東部の村 (Alichur)

Alichur村は標高3863m。すでに富士山頂を越えている。私は2011 年夏、アフガニスタン国境のワハン回廊を経て、パミールの代表的な村(Murghab)をめざしていた。Khargush峠(4344m)を越えて、この村をはじめて眺めたとき、ある種、「非生物的な、宇宙空間にいるのではないか?」という錯覚に襲われた。かように、Alichur村は日没前のまばゆい光で銀色に輝いていた。
 結局、私の初めてのパミールの旅はAkbaital峠(4655m)を越え、カラクル湖へ、そしてキルギスとの国境に近い Kizil Art 峠(4336m)で引き返した。そこはMarkansuという名の流れだが、広大な平原は国境を挟んで中国新疆ウイグル自治区カシュガルに通じている。
 

パミールの生物たち


上段左:地衣植物、上段中:カラクル湖(標高4000m隕石の衝突後に貯まった塩水湖、上段右:アカザの仲間、中段左:ウサギ、中段中:マーモット、中段右:ヤク(キルギス人が放牧、バターやチーズを作り生計を維持する。降雪はわずかで、冬でも草を食めるので、標高の低い方に降りないという)登山中ヤクに遭遇したが大変気性が荒い。下段はパミールの特徴ある植物。トルシャという。沙漠の荒野にボールをかぶせたように生えている(下段中)。下段右は地上部分の拡大したもの。彫り上げて軒下で乾燥させたもの(下段左)。キルギス人たちはこれを燃料にし、暖を採ったり調理する。

Juniper Forest (B) ビャクシン類の森林

 

 Juniper 林 I

(National Park Almoshy Reserve)

Juniper(ビャクシン)葉タジキスタン北部の海抜1500mから3500mに分布する。Juniperous semiglobosa, Juniperous seravshanica, Juniperous turkestanicaの3種が確認されている。特に海抜3500mから3700mの高地には、Juniperous turkestanicaが分布している。おもな分布地は、Turkestan (UzbekstanとTajikistanの国境付近に東西に伸びる山岳地帯), Zravshan地方はTurkestanに併行して、東から西側に流れる国際河川。Gissar(Hissar) 首都Dushanbeの北西にあたる山岳地。年間降水量は1800mmに達する。唯一の針葉樹林帯をなす。ビャクシン林の面積はおよそ15万haである。材積はhaあたり、10から12m3と推定される。水資源涵養や土壌保全の役割がある。
 

Juniper林 II


写真説明;上段左:Tajikistanの北西部はSharistonと呼ばれ、北側斜面にJuniperの天然林が見られる。ここでは営林署がJuniperの人工造林を試みている。我々が訪れたときには樹高3mあまりであった。植栽年を聞いたら、7年前だという。成長が非常に悪い。上段右:Juniperの種子。球果とはよく言ったものである。赤紫色で成熟すると黒色を帯びるという。下段左:斜面方位による植生のモデルである。写真中央にある窪みを挟んで、左側は北面、右側は南面にあたる。右側は日射による地熱の上昇により乾燥がすすむなどが分布欠落の原因と考えられる。一方北斜面は立木密度も豊かである。下段右:シャープペンシルの両脇に、Juniperの稚樹が見られる。苗高3cm程度。これでも4-5年を要するという。
 

Hiland Forest & Pasture

夏の放牧地Kulikalonを訪問

Uzbekistanとの国境近く(10km)にPenjikentという街がある。Penjikent はSamarkandに抜ける交通の要衝である。モヘンジョダロ並みの古代遺跡の一つで、ユネスコが援助した野外博物館がある。ロバの背中にしがみついて、登ってきたのはKulikalonと呼ばれる夏の放牧地である(標高3000m, 写真:上段)。夏の羊の放牧はある種の委託事業である。6月住民の財産である羊を牧童に預け、9月まで放牧を依頼する。4ヶ月間の預かり料等で牧童の暮らしが成り立つ。生活には燃料が必要だが、Juniperの幹が役立つ(下段左)。成長が悪いだけに火保ちがよいという。営林署には羊1頭1ヶ月あたり7ソモニ(50円程度)が手に入る。しめて4000頭から6000頭が入山する。それが毎年のことである。

Poplars & Willow Plantation (C) ポプラ および 柳

 

ポプラ林

ポプラおよびポプラ林は乾燥地に出かけるとよく見かける、落葉広葉樹の仲間である。ポプラ並木はシルクロードの景観と一体である。Tajikistan でもこれまでの記憶を裏切ることはない。もちろんその利用方法はそれぞれ特徴がある。Romit川に沿って上流に出かけると、自然植生が豊かになり、カエデ類も混じってくる。カナスク川の支流に、ポプラやドロノキの群落を見つけた。保存されているのではなく、ソビエト崩壊後の内戦中に人々が山に入らなかったという理由だった(上段左)。上段右はポプラの集団。パミール公道をアフガニスタン国境沿い、Vrangという村でみる。これまでポプラの単木や灌漑水路沿いのポプラはよくみたが集団のものは初めてである。Iskandarkhulで撮影した(下段左)。ポプラ天然林。ここは古代の英雄アレキサンダー大王が駒をとめたと言われる景勝地で、大きな湖がある。さしずめ駒止のポプラとでも言うべきか?下段右:Zaravshan河の右岸、Iskodar村の景観。ポプラがどの家々に植栽されている。それだけ、ポプラがいろいろな用途に使われていることの証だ。
 

ポプラ林 (Romit 源流)

Romit川の源流(カナスク川)。標高3500m。周囲は5000mクラスの雪山に囲まれて、まさに「Alp」の景観そのものである。一般に、植物の分布を決定する重要な要因は気温や年間の降水量やその分布が重要である。ポプラの分布はそうはいかない。生態の概説の図の中央に描いてある水色は河川を示しているが、標高や降水量の帯とあまり関わりがない。ここで紹介するツガイ林(河畔林, Riparian(Tugai)) 標高300m〜600mの低地で気温が高く、乾燥している場所を流れる川の河畔に成り立つ。アジアポプラ(Asiatic Popla Poplus pruinosa)、ギョリユウ(Tamalix Iaxa)、ヤナギバグミ(oleaster)などが生育し、アシ(Reed)、つる植物(Liana)などが混生している。Vakush河沿いの低湿地にあるTigrovaya Balka自然保護区には典型的なツガイ林がある。
 

ポプラ や 柳 の用途

ポプラの生長はすこぶる早い。通常6月くらいに、ポプラの種 というより綿毛が飛び交うのを観察した経験したひとが多いのではないか? 種がうまい具合に湿気た土壌に落下すれば生き延びれる。この種は挿し木で簡単に増殖できる。あるいは水条件が良ければ、直径5cmほどの大きな枝をそのまま直挿しする場合がある。この場合、家畜が背伸びしても届かない位置に芽が出て来る。旨くできている。上段右は柳の枝を剪定(切り落とし)燃料にする。丈夫な袋につめ街道筋で販売。農作業に柳の枝を利用したり、蒸して柔らかくして籠を作ったりと用途豊富。ポプラの材は村で伐期(正確には収穫表ー年齢と材積や材の重量)に達したら伐採するが、現実は伐採する側の事情で決まるようだ。太すぎず、細すぎず。街の製材所で製材して貰う。手数料を得て商売が成り立つ。スウェーデン製の鋸で、ドイツ製の目立て器が導入されていた。合計10,000ドルという。下段右:ポプラで屋根を支える。支柱は角材となっている。けっこうモダンである。屋根は粗朶と思われる。そのうち、製材したポプラの板材にかわるのだろう。

Fruits Tree Afforestation (D)  果樹園の増設

おもな果樹園

 Tajikistanにおける、おもな果樹をあげると次のようである。アプリコット、アーモンド、ピスタチオ、ブドウ、クルミ、クワの実、リンゴ、ピラカンサ、野生のチェリー、野生の木の実。地元住民の多くは、アプリコットを栽培している。樹幹距離はおよそ4-5mである。植栽数年目に接ぎ木や芽接ぎをして多収穫をめざす。用途は生食、乾燥してお湯で湯がいて食べる。ジュースにする。ジャムの需要も多い(上段左、下段下)。収穫物は家屋の屋根(平坦)で乾かす(上段中)。ピスタチオの林は緩い斜面を利用して栽培する(上段右)。アーモンドの実はピンク色をしている(中段左)。クワの実には2種類ある。白(下段右)と黒(中段右)である。中の写真は野生種の木の実?である。南部の乾燥地帯にはピスタチオの天然林があり、保護林として保全されている。リンゴは4種程度植林されているが、パミールにある谷の一つである、Vanch谷には、天山山脈から続く天然のリンゴ林が見られる。


 

Sclerophyllous open woodland

硬葉疎林

Tajikistan南部の標高600mから1700mに生育する。乾燥に耐えるため葉を硬く小型化してその環境に適応している。タジキスタンには硬葉樹林は8万haあり、そのなかで80%程度をピスタチオ林(Pistachia vera)が占める。材の蓄積は3-13m3である。ピスタチオ、アーモンド、イチジクなどの果実。ナッツの生産のため非常に重要出ある。衛生伐以外の伐採は固く禁じられている。洪水防止、土壌保全、自然環境保全上重要である。
 

 Pistachia vera

ピスタチオ林

ピスタチオ林(Pistachia vera)やアーモンド(Amygdaleta bucharica)はタジキスタンの南部の標高600mから1200m、年間降水量400mmから600mmの半乾燥地帯に生育する。樹冠が薄く、根系が発達している。ピスタチオの天然生木の樹齢は70年から120年と推定されている。ピスタチオの人工林は30年から60年生である。ナッツの生産量はhaあたり70kgから80kgである。面積は7.8万haである。アーモンドの面積は1.2 haである。ピスタチオやアーモンドなどのナッツ類の採取・販売はこの地方の重要な現金収入源となっている。
 

家庭菜園における苗木生産

新しいSDGsの試み

私たちの活動はさまざまなご支援で成り立っている。苗木購入費とその運搬費は支援金の半分以上を占める。将来、日本の支援なしに独自に植林活動が継続できるようになるには、苗木を自ら育てることが大切である。2018年から私たちは試験的に、苗木の自主生産を始めた。果樹の種を購入、住民に配布した。写真のようなごく普通の家庭菜園の一角を借りて、果樹苗木を作り始めた。身近なところで苗木を作ることができれば、雪崩の発生しやすい危険な場所を行き来して苗木を運ぶ必要がない。すでに、アプリコットの移植は2019年に実践ずみ。クルミの苗は5000本は移植の時期を待っている。

Desert & Desertification (E) 沙漠 と 砂漠化

Tajikistanの沙漠と砂漠化現象

砂漠化現象は乾燥地に起こる一種の荒廃した生態系のひとつである。原因の多くは社会科学的なもの、あるいは自然科学的なもの、それらを総合したものなどがある。これまで人間が引き起こしたとされる地球温暖化との関連で議論されることがおおい。
 上段の写真群はサクソール林(Saxaul forests)と呼ばれる。おもにホワイトサクソール(Haloxylon persicum)とブラックサクソール(Haloxylon aphyllum)からなる。面積は約1-1.2万haである。
アフガニスタン方面から、春先にサンドストーム(細かな砂特にワタのようなふわふわしたチリである。これが7000m位の高度まで上昇し大陸移動をする)これが一旦生じると、太陽が出ていても、おぼろ月夜のような暗さになる。数日間続くと視界が10m程になる場合がある。植物の葉の上にも当然降り積もる。タクラマカン沙漠のチラ沙漠研究所では車のボンネットに厚さ30cmものワタのような砂に被われた経験がある。
 上段はタジキスタン南部Kobodiyon近くの沙漠の景観である。左からサルソラ、ハロキシロン、胡楊の自然林である。わずかばかりの植生だが、その存在は地表面の移動しやすい細砂をとめる効果が期待出来る。胡楊(Populus euphratica)はおとなり中国にも、遠くスペインまで分布している。学名の由来はイラク・ユーフラティス河から命名された。手前は川を挟んでタマリックスの群落。
 下段はTajikistan北部、Uzbekistan国境の塩濃度の高い台地の沙漠。右側はKobodiyon近くの綿花栽培畑と塩濃度の高い地下水を排水するためのトレンチ。写真の薄黒く広がるものは地下から浸出してきた塩濃度の高い地下水。